作品資料
アトラビリアリオス / Atrabiliarios
ドリス・サルセド / Doris Salcedo
1992–2004 · インスタレーション / ミクストメディア
概要
Overview
履き古された靴を壁龕のような小さな開口へ収め、半透明の動物性素材で覆って縫い付ける、複数要素から成るインスタレーションである。
持ち主の身体を直接見せず、日用品の摩耗と見通せない膜を通して、失踪した人々の固有性と記憶の届きにくさを示す。
造形分析
Formal Analysis
構図
Composition
大小の矩形が壁面に間隔をあけて配置され、整然とした記録の形式と、一つずつ異なる靴の断片性が対照をなす。
空間
Space
靴は壁の奥へ沈み、表面の膜が鑑賞者との境界になるため、近づいても完全には見通せない浅い隔離空間が生まれる。
色彩
Color
白から黄褐色へ変化した膜、暗い靴、壁の淡色が低いコントラストをつくり、古びた資料のような時間を感じさせる。
形態
Form
直線的な開口と粗い縫い目が靴の曲線を囲み、身体に馴染んだ有機的な形を制度的な枠の中へ留める。
マチエール
Material
摩耗した靴、透過する膜、外科的処置を連想させる縫い糸が、保存、封印、傷の修復という相反する触覚を重ねる。
文脈・解釈
Context & Interpretation
文脈
Context
コロンビアで暴力的に失踪した人々とその家族への聞き取りを背景に、個人の持ち物を単なる資料ではなく不在の身体の痕跡として扱った。
題名は憂鬱や不穏な気質を示す語に由来し、個別事件の説明を越えて、終わらない待機と哀悼の状態を壁面全体へ広げる。
解釈上の論点
Interpretive Issues
靴を被害者の完全な代理とみなすのではなく、持ち主へ到達できない距離を膜と奥行きが保っている点を重視する必要がある。
美しい配置として消費する危険と、直接的な暴力表象を避けながら記憶を公共化する可能性の両方が問われる。
受験上の着眼点
Exam Points
各開口の大きさ、間隔、靴の見え方を比較し、反復する形式の中で個別差がどの程度残るかを見る。
膜の透明度と縫い目を観察し、保護する働きと視線を妨げる働きがどう同時に現れるか説明する。
壁の手前、膜、靴が置かれた奥という三層を整理し、不在が空間的な距離として作られる仕組みを考える。
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